2025年08月15日更新

【後編】プラズマローゲンの効果に関する最新研究―脳のパフォーマンス向上から免疫活性化まで多彩な可能性

これまで認知症や高齢者への効果で注目されてきたプラズマローゲンですが、より若い年代の脳のパフォーマンス向上や小児の神経発達疾患改善、免疫細胞を活性化する作用など、多様な可能性が次々と明らかになっているとのことです。

プラズマローゲン研究の第一人者である藤野先生の最新の研究から見えてきた多くの可能性について、「脳の健康」をテーマにした予防医学に取り組む田口淳一先生との対談でお話を伺いました。

(この記事には前編「アルツハイマー型認知症の本当の原因は”脳疲労”だった?最新研究が解き明かす現代病の正体」/中編「プラズマローゲンとは?第4のホルモンが認知症治療を変える可能性」があります)

プラズマローゲンにより健康な人も脳のパフォーマンスが向上

田口先生:これまで高齢者での効果を中心に伺ってきましたが、健康な若い世代への効果はいかがでしょうか?

藤野先生:実は非常に興味深い研究結果が出ています。私たちは運動部に所属する健康な男子大学生40名を対象として、質の高い臨床試験であるRCT(ランダム化比較試験)を実施しました。被験者を無作為に2つのグループに分け、本物のプラズマローゲンとプラセボ(偽薬)のカプセルを用意し、患者さんにも医師にもどちらを摂取しているか分からない状態で実験を行いました。

まず1ヶ月後に緊張、抑うつ、怒り、活気、疲労、混乱などの気分プロフィールに明確な変化が現れました。通常、大学生でも怒りっぽさ、疲労感、無気力感といった様々な気分の変動がありますが、プラズマローゲンを摂取したグループでは、これらのネガティブな気分が有意に減少しました。一方で偽薬のグループでは変化がありませんでした。

特に疲労感と無気力感については、非常に高い有意性をもって改善したのです。

田口先生:気分が改善したということは、認知機能にも影響があったのでしょうか?

藤野先生:まさにそこが重要なポイントです。「元気になったら脳の働きも良くなるのではないか」という考えのもと、今度は計算テストを実施しました。これは内田・クレペリン検査という、心理学で非常に有名な計算タスクで、10分間にわたって1分ごとに区切りながら、並んでいる数字の足し算を連続して行います。1分間計算して終わり、また2分目から開始という形で、達成量を継続的に測定します。

1ヶ月後に同じテストを実施して改善度を測定したところ、ほぼすべての検査でプラズマローゲンを摂取したグループの方が計算達成量が多かったのです。

そして最も特徴的だったのは、偽薬グループでは5分頃から中だるみを起こして計算量が落ちていく現象です。ところが、プラズマローゲンを摂取したグループでは中だるみが見られませんでした。

プラズマローゲンによる集中力向上効果の実験結果グラフ

出展:Front Cell Dev Biol 2022, 10:894734

田口先生:集中力の持続時間が延びたということですね。

藤野先生:はい。これは健康な人がプラズマローゲンを摂取すると精神集中力が高まるということを実験的に証明した非常に重要な結果です。この研究はすでにアメリカの医学雑誌に掲載されています。

現代の大学生は学業、スポーツ、アルバイトなど多くのストレスにさらされ、さらにスマートフォンの多用による情報過多で脳疲労状態になりやすい環境にあります。プラズマローゲンは、こうした若年層の脳機能を最適化し、本来の能力を十分に発揮できるようサポートする可能性があることが確認されたのです。

プラズマローゲンの効果が期待される小児神経発達疾患への研究

プラズマローゲンの幅広い研究成果について話す藤野武彦医師

田口先生:他にも進めておられる研究などはあるのでしょうか? 

藤野先生:現在、アメリカで子どもの脳の発達に関わる病気の治療薬開発を進めています。希少疾患である自閉症などの発達障害に対する新しい治療の選択肢として、プラズマローゲンが関係する薬剤の開発を行っており、すでにアメリカの食品医薬品局(FDA)とのやりとりも進めています。将来的に優先審査や特別な支援を受けられる資格を得ており、非常に有望な研究段階にあります。

日本では、1例だけお子さんにプラズマローゲンを摂取してもらっている例があります。プラズマローゲンが不足している難病のお子さんに、3歳から5年間使用していますが、元気に成長しています。

田口先生:なるほど。そうなると、治療だけではなく予防の観点からも気になるところですが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

藤野先生:妊娠中のお母さんのストレスが脳の発達に影響することが分かっているので、妊娠中にプラズマローゲンを摂取することで発達障害の予防につながる可能性があります。というのも、お母さんの初乳(出産直後の母乳)には、プラズマローゲンが非常に多く含まれています。これは自然が「生まれたときから脳の発達にこの成分が必要」と教えてくれている証拠だと考えます。ただし、これはまだ仮説段階で、慎重に研究を進めています。

ウイルスやがんの抑制にも?NK細胞を活性化する作用

田口先生:プラズマローゲンには免疫機能への効果もあるとお聞きしました。

藤野先生:はい。私たちの研究で、プラズマローゲンがNK細胞(ナチュラルキラー細胞)を活性化する作用があることが分かってきました。NK細胞というのは免疫細胞のひとつで、がん細胞やウイルスに感染した細胞を見つけて攻撃する重要な働きをしています。

NK細胞の活性が高いということは、がん細胞の発生を早期に発見して除去したり、ウイルス感染に対する抵抗力が強くなったりすることを意味します。つまり、プラズマローゲンは免疫機能を強化することで、がんやウイルス感染症などの疾患予防に効果がある可能性があるのです。

また興味深いのは、プラズマローゲンが炎症を抑制する作用と免疫を活性化する作用の両方を持っていることです。通常、炎症を抑える薬を使うと免疫機能も一緒に低下してしまうことが多いため、一見矛盾するように思えますが、これは非常に理想的な働きです。有害な慢性炎症は抑えながら、必要な免疫機能は強化する。この絶妙なバランスが、プラズマローゲンの大きな特徴の一つです。

プラズマローゲン投与によってマウスの腫瘍が縮小した研究データ

出展:J Immunol, 2022 209:310-325

田口先生:免疫老化の予防にも効果があるのでしょうか?

藤野先生:その可能性は十分にあります。年齢とともに免疫機能は低下しますが、NK細胞の活性化により、この免疫老化を遅らせたり、改善したりする効果が期待できます。ただし、この分野の研究もまだ初期段階にあり、今後さらなる検証が必要です。

まとめ:プラズマローゲンが秘める“可能性”へ期待

藤野先生と田口先生、対談の様子

田口先生:今日のお話を伺って、プラズマローゲンの可能性の広さに驚きました。

藤野先生:認知症治療から始まった研究ですが、今では子どもの脳発達支援、若年層の脳機能向上、免疫機能強化まで、多岐にわたる分野でプラズマローゲンの効果が期待されています。これは私たちが当初想像していた以上の広がりです。

田口先生:ただし、まだ研究段階のものも多いということですね。

藤野先生:そうです。科学的な信頼性を保つため、各分野でのプラズマローゲンの効果について、一つずつ丁寧に臨床試験を重ねて、確実な証拠を積み上げることが重要です。特に子どもを対象とした研究では、安全性の確認を最優先に、慎重なアプローチを続けています。

しかし、これまでの研究で得られた結果は非常に希望の持てるものです。動物実験とヒトでの臨床試験の両方で効果を実証している物質として、プラズマローゲンは他に類を見ない存在だと考えています。

取材にご協力いただいた先生
藤野 武彦(ふじの たけひこ)医師
九州大学 名誉教授
一般社団法人プラズマローゲン研究会 臨床研究部代表
医療法人社団ブックス 理事長
株式会社レオロジー機能食品研究所 代表取締役
九州大学医学部卒業後、九州大学医学部第一内科において、内科とくに心臓・血管系の病気の研究を行う。九州大学健康科学センターが開設されたのを契機に、「健康科学」という新しいサイエンスに挑戦し、1991年に「脳疲労」概念を提唱。「脳疲労」を解消し、脳を活性化する手法であるBOOCS(脳指向型自己調整システム)理論を創出した。九州大学退官後は、医療法人社団ブックス理事長として BOOCS理論を取り入れた診療を行っている。
田口淳一(たぐち じゅんいち)医師
一般社団法人脳の健康を守る総合研究所 代表理事
東京ミッドタウンクリニック 総院長
1984 年 東京大学医学部卒業
1993年ワシントン大学へ留学
東京大学医学部附属病院助手、元宮内庁侍従職侍医、東海大学医学部付属八王子病院循環器 内科准教授を経て、2007年 東京ミッドタウンクリニック院長、2010年 東京ミッドタウン先端医療研究所所長、2020年5月 日本橋室町三井タワー ミッドタウンクリニック総院長、2024年5月 東京ミッドタウンクリニック総院長。2024年9月 一般社団法人脳の健康を守る総合研究所 代表理事に就任。
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