2026年01月08日更新

【後編】認知症を予防する生活習慣―血管ケア×難聴対策×手の運動で“脳の健康”を守る

画像診断技術の進歩で、認知症の診断と治療は格段に進歩しました。そこで次に気になるのが、予防の可能性です。認知症は予防できるのか。どうすればできるのか。
脳神経分野の医師として脳の画像診断や脳疾患の治療、認知症の診療に関わってきた橋川一雄先生にお聞きしました。
(この記事は【前編】アルツハイマー病か血管性認知症か。診断の壁と共通する予防法 があります)

実は多いアルツハイマー型と脳血管性の併発型認知症

インタビューを受ける橋川一雄医師

年を重ねれば筋肉や臓器の機能が衰えるのと同様、脳も衰えを避けることはできません。もっとも、加齢で機能が衰えるのは自然なことですので、「年なり」の衰えであれば病気と診断されることはありません。
一方、年齢相応以上に認知機能低下を認めるとき、なんらかの認知症を疑い、日常生活に介助が必要なレベルまで低下が進行していれば認知症と診断されます。

認知症の原因となる疾患には、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など多くの病気があります。その中でもっとも多いのがアルツハイマー病です。認知症の原因となっている疾患によって、その後の予後や治療法が異なります。

とはいえ、病気の種類をひとつに絞るのは、実は簡単ではありません。
検査でアルツハイマー病のバイオマーカー(診断の指標となる生体から得られた計測値)が検出されたからといって、その方の主たる症状が、アルツハイマー病によるものなのか、加齢による自然の機能低下によるものなのか、あるいは、他の認知機能低下を来す疾患を合併していてその影響によるものなのかを特定することはとても困難です。
高齢者になると、脳卒中の既往がなくても、多くの方にMRIで小さな脳梗塞や脳出血を認められます。また、細い血管の老化による白質病変も多くなります。これらは、血管の老化によって生じる血管性認知症の一因となるものです。

アルツハイマー病では、まず脳内に「アミロイドβ」と呼ばれる異常タンパクが蓄積し、次に脳内に存在するタウタンパクがリン酸化され神経細胞内にリン酸化タウが蓄積することで神経細胞が障害を受けるとされています。

しかし、脳内にアルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβが蓄積していても、認知症の兆候がまったく見られない方もあり、一方で、アミロイドβの蓄積が少なくても認知症状が進行している場合もあります。アルツハイマー病と診断されている患者さんの半数近くは、血管性認知症を併発している混合型認知症と考えられ、2つの認知症疾患がどの程度現在の認知機能低下に寄与しているかは人によって異なることになります。

生活習慣病予防が認知症の予防になる

アルツハイマー病が発症する仕組みは次第に明らかになりつつあり、進行を遅らせる治療薬も登場してきました。一方、認知症を予防する方法も分かってきています。

ポイントは、脳の血管を健康に保つこと。これができれば、認知症の発症、進行を大幅に遅らせられる可能性があるのです。

脳も、血液から酸素や栄養素を受け取り、代謝によって生じる老廃物を血液循環で排出していくという点では、他の臓器と変わるところはありません。つまり、血管を健康に保つことができれば、認知症の発症予防につながります。
血管の健康とは、すなわち動脈硬化の予防です。動脈硬化を進めるような病気、たとえば高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満あるいはそれらが組み合わさったメタボリックシンドロームをちゃんとコントロールすることができれば、認知症の予防にもなるのです。

実際、認知症の予防法として「血圧を管理する」「運動をする」「よい食生活をする」といった生活改善策が知られていますが、これらはいずれも脳卒中のリスクを下げるものであり、動脈硬化の進行を抑制するものでもあります。
認知症を完全に予防できる薬やサプリメントはまだ存在しませんが、地道な日々の生活改善が予防につながります。

認知症リスクを高める要因と予防につながる生活習慣

他にも認知症のリスクを下げ、また進行を遅らせる効果が知られていることがありますのでご紹介します。

人と社会との関わりが多様な人ほど認知症リスクが低い

予防に向けてぜひ続けていただきたいのが、人とコミュニケーションをとることです。
10年近い追跡調査の結果、「同居家族と支援のやりとりがある」「配偶者がいる」「友人との交流がある」「地域の何らかのグループに所属している」「就労している」のいずれかに当てはまる人は、認知症のリスクが低くなることがわかっています(1)

該当する項目が多ければ多いほどリスクが下がるという結果が出ており、人や社会との関わりが多様な人ほど認知症になるリスクが低いのは間違いありません。

会話をするのは、他の動物と「ヒト」を区別する大事な要素であり、「ヒト」を特徴づける高度な脳の活動です。言葉を理解し、相手の気持ちをおもんばかり、適切な言葉を選んで、言葉と表情でそれを伝えるという一連のタスクをこなすことで、脳はフル回転しています。当然、脳の神経細胞が活性化され代謝が増加し、それに伴って脳血流も増加します。
また、認知症は日常生活が1人ではできず介助が必要な状態です。買い物や交通手段の利用など日常生活をおくることに必要な手段は、人や人が作った機械とコミュニケーションを取ることです。そのコミュニケーション能力の中心は言語であり、日頃から豊富にコミュニケーションを行うことが訓練となって、認知症の予防になるのです。
もし、ご家族に認知症の発症が疑われる方がいれば、できるだけ積極的にコミュニケーションをとり、コミュニケーション力の低下を防ぐことがいちばんの支えになるはずです。

社会的孤立を助長する「難聴」は認知症リスクを高める

難聴で補聴器を付けている男性高齢者

逆にいちばんよくないのが社会的に孤立してしまうことです。言葉を使わなくなり、自分の殻に閉じこもってしまうと、認知症のリスクは非常に高くなります。難聴が認知症の危険因子であることが分かっていますが、これも社会的孤立を助長するためです。

難聴によって人の話がよく聞き取れなくなると、聞き直すのも気後れして、積極的にコミュニケーションをとろうとする努力を放棄してしまいがちです。難聴の兆候があれば、できるだけ早く補聴器を作り、コミュニケーションをあきらめないことが大切です。

【関連記事】認知症リスクを高める14の要因とは? ならないための予防策も解説

脳の予備力低下に備える

加えて、次の外出の計画を立てたり、外出した先であらたな風景や事物に出会ったりすることでも脳は活性化します。もっとも、すでに認知症の入り口に立っている人は、旅行の計画や、切符を購入するといった行動を起こすことが、面倒と感じるかもしれません。健常な人にとっては、なんでもなく簡単にできるタスクですが、脳の処理能力が落ちてくると、重荷に感じられるようになります。

「脳の予備力」、つまり脳の処理能力に余裕がなくなってくるとこうした状況に陥りやすく、余力がないところにふとしたストレスが加わると、処理能力の限界を超えて、混乱を生じ機能停止してしまうということが起こります。入院など環境が変わったときに生じるせん妄などはその例です。

日頃から「脳の予備力」を保っておくことで、ストレスが生じたときにも対処することができるのです。面倒だと感じることが多くても、ぜひおっくうがらずにチャレンジをしてみてください。また、現在、問題なくできているという方は、ぜひその習慣を継続してください。脳の健康維持に必ず役立ちます。

高年齢になればできないことが増えてくるのも当然です。家族や周囲の人に少し手伝ってもらえば、できることはたくさんあるはずです。ときには勇気を持って助けをお願いすることも必要です。

手を動かすのも脳の神経ネットワーク活性化に効果あり

手を使うことも脳にはとてもよい影響を与えます。ピアニストやバイオリニストの方は80歳を超えても素晴らしい運指をされています。指を動かすのも脳の働きですし、正確にコントロールするには、脳がきちんと働いていなければできません。それができるのは、何より毎日の練習があるからでしょう。

脳の神経細胞は、残念ながら年とともに減っていきますが、すべての脳の機能は、神経細胞のネットワークによって作られています。神経細胞の末端から伝達物質が出て、隣の神経細胞を刺激する−このやり取りの繰り返しでネットワークはできています。ですから練習を繰り返せば、ネットワークが活性化されて、機能が維持されるのです。粘土細工や土ひねりなども、とてもよいと思います。自分ができることでよいので、興味もってできそうなことを探してみてください。

【関連記事】老人ホームのアクティビティはどんなもの?具体的な内容や、その効果と役割とは

参考文献

  1. Chiyoe Murata, Tami Saito, Masashige Saito, Katsunori Kondo. The association between social support and incident dementia: A 10-year follow-up study in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2019, 16, 239; doi:10.3390/ijerph16020239
取材・監修にご協力いただいた先生
橋川一雄(はしかわ かずお)先生
医療法人社団ハイメディッククリニックWEST
1983年大阪大学医学部を卒業し、大阪大学第一内科および中央放射線部にて、脳卒中のおよび脳核医学の臨床・研究を行う。2001年京都大学大学院医学研究科高次脳機能総合研究センター助教授となり脳科学の研究に従事。その後、2012年に国立病院機構大阪南医療センター脳卒中センター部長、2018年大阪けいさつ病院脳神経内科部長を歴任。2022年から医療法人社団ハイメディッククリニックWEST医師、および一般社団法人脳の健康を守る総合研究所理事に就任。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。

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