2026年02月16日更新

認知症と生きる時代の診断の受け止め方・家族の接し方・相談先

誰もがなる可能性のある「認知症」。認知症を患うと、周囲と自分との関係が分からなくなったり、過去の記憶と現在のできごとの区別がつかなくなったりすることで、不安やいらだちを感じることがあります。一方で、患者さんを支えるご家族も、つらい思いや苦労をすることは少なくありません。
お互いにストレスがたまり、家族関係が悪化してしまうと、治療やケアがうまくいかなくなることもあります。そうならないためにはどうするべきか、認知症診療の現場で数多くの患者さん・ご家族と向き合ってきた吉山容正先生にお話を伺いました。

「認知症=症状」と「アルツハイマー病=病名」の違い

認知症とは、認知機能(脳で情報を処理して、適切に考えたり行動したりする力)が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす「状態(症状)」をいいます。あくまでも「状態(症状)」を指しており、それを引き起こす「病気」を直接指すものではありません。

例えば、「発熱」は熱がある状態を指しており、その原因には、風邪や肺炎、膀胱炎などさまざまな病気が考えられます。認知症も同じように、アルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、さまざまな病気が原因で認知症という症状が現れます。

認知症の原因のうち、最も多いのがアルツハイマー病です。アルツハイマー病とは、脳の中にアミロイドβ(ベータ)と呼ばれるたんぱく質が異常に蓄積する病気です。アミロイドβは普段から私たちの脳内で産生されていますが、睡眠などを十分にとることで脳から排出されます。これがうまく排出されないと、時間をかけて蓄積し、固まりとなったアミロイドβが神経細胞の働きを悪くして最終的に神経細胞が死んでしまいます。その結果、認知機能が低下していきます。

アミロイドβの蓄積は、認知症の症状が現れる20年以上前から始まっていると考えられています。つまり、アルツハイマー病があるにもかかわらず、認知症の症状が出ていない人もいるわけです。アミロイドβの蓄積の状態を画像検査で調べてみると、高齢になって脳内にアミロイドβが多く蓄積されているにもかかわらず、認知症の症状が出ないという人がたくさんいます。このように、病気の存在と症状との乖離が非常に大きいことが、アルツハイマー病の大きな特徴といえるでしょう。

認知症リスク検査や早期診断を受けるべき人・受けなくてもよい人

インタビューに答える吉山容正先生

アルツハイマー病という病気を背景として症状が現れているなら、他の病気と同じように、早く医療機関へ相談するというのは決して間違っていることではありません。しかし、患者さんのご家族の中には「早期診断」が絶対だと思い込み、過敏になりすぎる方もいらっしゃいます。ご本人が困っていないのに、ご家族が「認知症かもしれないから」と無理やり医療機関に連れてきたら、家族関係にひびが入りかねません。

病気の存在と症状との乖離が大きいアルツハイマー病は、一律に早期診断が重要とはいい切れないのです。例えば、アルツハイマー病で多少忘れっぽくなったとしても、何の問題もなく生涯を終えられるなら、病気を診断すること自体にあまり意味はないかもしれません。一方で、まだまだ働き盛りの方や、これから新しい事業を始めようとしている方、リタイア後の人生を活発に楽しみたい方にとっては、アルツハイマー病を早期に診断し、今の状態を少しでも長く維持できるように治療することには意味があるでしょう。

人間ドックなどでは、アルツハイマー型認知症のリスクを知るためにAPOE遺伝子検査(アルツハイマー型認知症の発症リスクに関わるAPOE遺伝子を調べ、将来の認知機能低下リスクを評価する検査)が実施されることもあるようですが、認知症の発症リスクが高いかどうかを事前に知ることにどんな意味があるのかを理解している方であれば、検査を受けてもよいかもしれません。もしリスクが高いなら、生活習慣を改善して少しでも発症を遅らせるよう心がけたいという方にとっては、価値のある検査だと思います。

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理解いただきたいのは、認知症のリスクを知ったり、早期に診断を受けたりすることは、人によって意味合いや重みが異なるということです。医師は、早期診断をすること、治療をすることがその方にとって意味のあることかを一人ひとり個別に判断して、診察を行っています。状況によっては、認知症という診断を告知することで患者さんに恐怖や不安だけを与えてしまうことになりかねません。

高齢化が進む日本では、人生を通すと半数以上が認知症になる時代が来ると思います。そうなったとき、「認知症は病気だから治療しましょう」とひとくくりにしていいかどうかは、判断が難しいでしょう。老化の一部という捉え方をしたほうがいい人もいれば、積極的に治療したほうがいい人もいるはずです。認知症が今後ますますありふれた病気になるからこそ、このことを理解しておくことが大切です。

家族はどんな接し方をするべき?人間関係を崩さないために

先にお話したとおり、認知症はアルツハイマー病などの病気が原因で起こる脳の認知機能の低下なので、ご本人の意思などで改善させることはできません。病気の症状として捉えられないと、「繰り返し言えば覚えられるのでは」「家中にメモを貼り付けておけば忘れないだろう」と考えてしまいがちですが、そんなことはないわけです。それを理解せず、ご家族が子どもに対するしつけのように接したり、ご本人の努力不足のような言い方をしたりして、患者さんが傷つくことも少なくありません。

病気の自覚がないご本人からすれば、「家族からいつも文句ばかり言われている」と感じ、イライラが募ってしまいます。そんな態度を見て、ご家族は「認知症のせいで怒りっぽくなった」と感じるかもしれませんが、患者さんの立場になれば怒るのも当然です。これまでは自分が子どもに物を言う立場だったのに、年を取って自分が言われる立場になってしまったということを仕方なく思いながら、我慢して不満を抱えていらっしゃる患者さんは多くいます。

そもそも誰であれ、家族から「こうやれ」「こうしろ」と強く言われたからといって、やれるようになんてなりません。相手が認知症かどうかは関係なく、人と人どうしのコミュニケーションなのですから、相手を否定したり、傷つけたりするような接し方はよくありません。

もしそんな状況が続いて家族の人間関係が崩れてしまったら、治療や介護サービスの導入にも悪影響が及び、うまくいかなくなることさえあります。認知症の治療やケアにおいては、ベースとなる家族の人間関係が非常に重要なのです。もし、高齢のご家族の変化に気づき、以前はできていたことが明らかにできなくなったと感じたら、それを正そうとするのではなく、「もしかしたら病気による変化なのかもしれない」という発想を持って、早めに専門家などを頼っていただきたいと思います。

認知症介護で疲弊しないために利用したい家族会や相談・支援サービス

認知症の患者さんが同じことを繰り返し言ったりすると、一緒に暮らすご家族は「さっき聞いたから」などとぶっきらぼうな返答をしてしまいがちです。しかし、患者さん自身は自分が初めて言ったつもりのことに対して否定的な返答をされたと感じるので、驚き、かつイライラしてしまいます。こんなことが続くと、ご家族も、患者さんも、精神的につらくなってくるでしょう。

そうならないためにご家族の側は、「これは病気のせいだから仕方ない」と理解して受け流すことが一番です。なぜこんなことをするのかと戸惑いを感じたら、「もし自分がすごく忘れっぽくなったらどうなるか」を想像してみてください。「言ったこと自体を忘れてしまっているなら、同じ話をするに決まっている」と、目の前の患者さんの行動に納得がいくはずです。

ただ、一緒に暮らすご家族の場合、「病気のせいだから」と頭では理解できても、毎日のことでストレスがたまり、心がついていかないこともあると思います。だからこそ、患者さんと離れる時間をなるべく確保することも大切です。同じ状況のご家族と交流を持つことで気持ちが楽になることもあるので、認知症カフェや介護者の会・家族会などに参加してみるのもよいでしょう。

認知症カフェや介護者の会・家族会の情報は、各地域に設置されている認知症疾患医療センターに問い合わせれば教えてもらえるはずです。認知症疾患医療センターはどんなことも相談できる専門機関なので、困りごとや悩みがある場合は自分だけで抱え込まず、ぜひ頼っていただきたいと思います。

認知機能が落ちても安心して暮らせる社会に

年をとったら歩きにくくなって杖をつくようになるのと同じで、認知症でもの忘れの症状が出たとしても、人の手を借りて生活していくことはできます。できないことが増えても、卑下することはありません。むしろ、認知症は健康で長生きすればするほど発症する確率が高まるものなので、年をとったのだから仕方がないと受け止めて、付き合っていくものと捉えていただきたいと思います。

私が診ている患者さん・ご家族でも、それぞれ工夫したり、努力したりして楽しみながら生活している方はたくさんいらっしゃいます。昔と比べると、車いす利用者が移動できる範囲が格段に広がってきたように、認知機能が落ちたとしても、普通に生活ができる社会になっていくことを期待しています。

取材・監修にご協力いただいた先生
吉山 容正(よしやま やすまさ)先生
稲毛神経内科・メモリークリニック院長

1986年に北海道大学医学部卒業後、千葉大学医学部附属病院で物忘れ外来を2016年3月まで20年にわたり担当。2003年より千葉東病院神経内科医長、診療部長として神経難病の治療、認知症の治験専門外来を担当し、数多くの認知症治療薬の開発にも携わる。2016年7月、稲毛神経内科・メモリークリニックを開設。日本認知症学会専門医・理事、日本神経学会神経内科専門医・指導医・評議員、日本老年精神学会専門医・評議員。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。

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