認知症の前段階「MCI(軽度認知障害)」とは?早期発見のためのチェックリストも紹介

「最近、物忘れが増えた」「同じ話を繰り返している」、、、
ご家族にこのような症状が見られる場合、MCI(軽度認知障害)の初期サインかもしれません。MCIは認知症の前段階とされますが、さまざまな原因によるもので、早期発見・適切な対策により認知症への進行を遅らせることが可能です。
今回は、MCIの定義や認知症との違い、症状のチェックリスト、そして効果的な予防法を分かりやすく解説します。
目次
MCI(軽度認知障害)とは?
MCI(Mild Cognitive Impairment)は、日本語で「軽度認知障害」と呼ばれ、正常な加齢による物忘れと認知症の中間に位置する状態です。
MCIの定義と診断基準
MCIを正確に理解するために、まず厚生労働省が示す定義と、医療現場で用いられる診断基準を見ていきましょう。
【定義】
厚生労働省はMCI(軽度認知障害)を以下のように定義しています。
進行的に認知症にいたる、認知機能の変化から見れば正常な老化の過程と区別できる 前駆的な期間が存在する。正常な高齢者が認知的変化を生じて認知症に転化していく過程 で、認知検査で正常の老化と区別しうる時点から認知症の診断がつくレベルまでの期間と して 5 年から 10 年の期間がある。平均すると 6 年から 7 年である。広義には軽度に認知機 能が低下したこの時期の状態を軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)と呼ぶ。
厚生労働省「資料7-1 認知症と軽度認知障害について」
つまり、軽度認知障害(MCI)とは「正常な老化と認知症の中間の状態」のことです。物忘れなどの認知機能の低下が始まっているものの、まだ認知症とは診断されないレベルの状態を指します。
【診断基準】
同じく、診断基準は以下のとおりです。
1.認知症または正常のいずれでもないこと 2.客観的な認知障害があり、同時に客観的な認知機能の経時的低下、または、主観的な低下の自己報告あるいは情報提供者による報告があること 3.日常生活能力は維持されており、かつ、複雑な手段的機能は正常か、障害があっても最小であること
厚生労働省「資料7-1 認知症と軽度認知障害について」
医療機関では、問診や認知機能検査、脳画像検査(MRIやCTなど)を組み合わせて総合的に判断します。特に重要なのは、本人だけでなく家族からの情報です。日常生活での変化を客観的に把握することで、より正確な診断が可能になります。
MCIの有病率と将来推計
厚生労働省によると、日本におけるMCIの有病率は年々増加傾向にあります。2022年時点で、日本におけるMCIの高齢者数は約560万人で、有病率は15.5%と推計されています。2030年には約590万人、2040年には約610万人に達すると予測されており、超高齢社会を迎える日本において、MCIへの対策は大きな課題となっています。
参考:厚生労働省「認知症およびMCIの高齢者数と有病率の将来推計」
MCI(軽度認知障害)と認知症の違い

MCIと認知症は連続した状態ですが、明確な違いがあります。以下の表で、主な違いをわかりやすく整理しました。
| 項目 | MCI(軽度認知障害) | 認知症 |
| 記憶障害の程度 | 軽度の物忘れがあるが、ヒントがあれば思い出せることが多い | 比較的重度の記憶障害があり、ヒントがあっても思い出せない |
| 日常生活への影響 | ほぼ自立して生活できる。複雑な作業で軽度の困難を感じる程度 | 日常生活に明確な支障がある。介助が必要になる |
| 本人の自覚 | 症状を自覚していることが多い | 症状の自覚が乏しくなる |
| 治療・対応 | 生活習慣の改善、認知トレーニングなどで進行を遅らせられる可能性が高い | 症状の進行を遅らせる薬物療法や、日常生活のサポートが中心 |
MCIは、物忘れが増えていても、日常生活はおおむね自立してできる状態です。例えば、「先週の約束を忘れたが、カレンダーを見れば思い出せる」「買い物リストを作れば必要なものを買える」などです。一方、認知症に進行すると、「約束があったこと自体を忘れる」「買い物に行っても何を買うべきかわからない」といった、より重度の症状が現れ、日常生活にも支障をきたします。
2024年には、MCIと診断された患者さんを対象にした新しい薬も登場しています。これらの薬は、認知症への進行を遅らせることを目的としており、早期発見・早期治療の選択肢が広がっています。ただし、すべての方に適応されるわけではなく、医師による適切な診断と治療方針の決定が必要です。
【関連記事】認知症治療薬の現在と最新動向 ― 薬の開発にも携わる認知症専門医が解説
MCI(軽度認知障害)のチェックリスト
MCIの早期発見には、日常生活での変化に気づくことが重要です。以下のチェックリストを活用して、ご自身やご家族の状態を確認してみましょう。
【11項目のMCIチェックリスト】
- 最近あった出来事を思い出せないことがある
- メモを頻繁にとるようになった
- 同じ人に同じ話を繰り返し言う
- 料理や片付けを段取りよく進められなくなった
- 以前と比べて注意散漫になった
- 言い間違いが増えた
- 理解力が衰えてきたと感じる
- 読み書きが難しくなる
- 図形の描写が難しくなる
- よく知っている道でも迷うことがある
- 車の運転が以前より不安定になる
※地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター|軽度認知障害(MCI)を参考に作成
複数の項目に該当する場合は、MCIの可能性があります。ただし、これらの症状は加齢による正常な変化でも起こり得るため、自己判断は禁物です。該当する項目が多い場合や、症状が気になる場合は、かかりつけ医や地域の認知症相談窓口、もの忘れ外来などの専門医療機関への相談をおすすめします。
MCI(軽度認知障害)の予防で大切なこと

世界的な医学雑誌「ランセット(The Lancet)」の国際委員会は、認知症およびMCIを予防するために、14のリスク因子への対策を推奨しています。これらは科学的根拠に基づいた方法で、日常生活に取り入れることで認知機能の低下を予防・遅延させる効果が期待できます。
【14のリスク因子と対策】
- 教育の不足 : 読書や新しい知識の習得など、生涯学習を続ける
- 難聴 – 聞こえにくさを感じたら早めに補聴器を使用する
- 高LDLコレステロール – 食事療法や薬物療法で適切な値に管理する
- 外傷性脳損傷 – 転倒予防、ヘルメット着用など頭部を守る工夫をする
- 高血圧 – 定期的な血圧測定と必要に応じた治療を行う
- アルコールの過剰摂取 – 適量を守り、休肝日を設ける
- 肥満 – 適正体重を維持する
- 喫煙 – 禁煙する
- うつ – 気分の落ち込みが続く場合は早めに医療機関に相談する
- 社会的孤立 – 家族や友人との交流、地域活動への参加を心がける
- 身体活動不足 :適度な運動を取り入れる
- 糖尿病 – 血糖値を適切にコントロールする
- 大気汚染 – 大気汚染が高い日は外出を控える、空気清浄機を使用する
- 視力障害 – 定期的な眼科検診を受け、必要に応じて眼鏡などを使用する
ランセット委員会の研究によると、これら14のリスク因子に適切に対処することで、認知症を予防したり、発症を遅らせたりできる可能性があるとされています。まずは、ご自身が取り組みやすいものから始めてはいかがでしょうか。
【関連記事】認知症リスクを高める14の要因とは? ならないための予防策も解説
早期発見と適切な対策でMCIの進行は遅らせることができる
MCI(軽度認知障害)は認知症の前段階であり、日常生活は自立しているものの軽度の認知機能低下が見られる状態です。早期発見のためには、本人の自覚症状だけでなく、家族や周囲の人が感じる変化にも注意を向けることが重要です。
今回紹介したチェックリストを活用し、該当する項目が多い場合は医療機関や地域の高齢者相談窓口など、専門機関への相談を検討しましょう。また、運動や栄養管理、社会活動への参加など、WHOが推奨する14の対策を日常生活に取り入れることで、認知症への進行リスクを軽減できる可能性があります。まずは、ご自身が取り組みやすいことから始めてみてはいかがでしょうか。
■参考文献
- 厚生労働省|認知症およびMCIの高齢者数と有病率の将来推計
- 厚生労働省|資料7-1 認知症と軽度認知障害について
- 内閣府|認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究|令和5年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)|九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野 教授 二宮利治
- 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター|軽度認知障害(MCI)
- 日本総研|認知機能低下および認知症のリスク低減|令和元年度 厚生労働省老人保健健康増進等事業「海外認知症予防ガイドラインの整理に関する調査研究事業」|WHO ガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』邦訳検討委員会
- THE LANCET|Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission
- 厚生労働省「資料7-1 認知症と軽度認知障害について」
取材・監修にご協力いただいた先生
国立長寿医療研究センター/ハイメディック名古屋トラストクリニック
伊藤健吾(いとう けんご)先生
国立長寿医療研究センター病院放射線診療部長、認知症先進医療開発センター脳機能画像診断開発部長、同センター長、治験・臨床研究推進センター長を務めた。専門は認知症の画像診断。SPECT、PET、MRI、MEGなどを用いた脳形態および機能の総合的評価に関する研究を行う。
アルツハイマー病の早期診断に関する多施設共同研究(J-COSMIC研究、SEAD-JAPAN研究、J-ADNI研究、AMEDプレクリニカルAD研究など)に参加。画像や血液バイオマーカーを用いた早期診断法の開発、認知症領域の臨床研究の推進に取り組む。国立長寿医療研究センターにおける認知症の診断、とくに画像診断の研究開発分野において重要な役割を果たしてきた。最近は、認知症検診の立ち上げにも精力的に取り組んでいる。
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