2026年01月20日更新

前頭側頭型認知症の症状や原因とは|急な人格変化に注意

「最近、家族の性格が変わったような気がする」―このような性格や行動の変化は、前頭側頭型認知症の影響かもしれません。前頭側頭型認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症と並ぶ認知症の主要4タイプの1つで、人格変化や行動異常が目立ちやすいことが特徴です。

ここでは、前頭側頭型認知症の症状チェックポイントから原因や治療法、適切な対応方法を解説します。

前頭側頭型認知症とは

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉(額の裏側にある部分)や側頭葉(こめかみの内側にある部分)が徐々に萎縮していく病気です。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症とともに、認知症の主要タイプの1つで、認知症全体の約1%程度とされています。

タイプ別認知症の割合

出典:政府広報オンライン|知っておきたい認知症の基本

大きな特徴は、記憶障害よりも先に人格変化や行動異常あるいは言葉の問題が目立つことです。「穏やかだった人が怒りっぽくなった」「几帳面だった人がだらしなくなった」「自然な会話が難しくなった」といった変化が初期から見られるため、家族が最初に気づくことが多い認知症です。

前頭側頭型認知症とピック病の違い

また、前頭側頭型認知症を紹介する上で欠かせないのが「ピック病」です。かつてピック病は前頭側頭型認知症とほぼ同義で使われていましたが、現在はピック病は前頭側頭型認知症の1種として位置づけられています。

前頭側頭型認知症の中でも、脳の神経細胞に「ピック球」や「ピック細胞」という特殊な構造物が見られる場合をピック病と呼びます。つまり、ピック病は前頭側頭型認知症の中のより具体的な診断名といえるでしょう。症状面では両者に大きな違いはありませんが、ピック病は病理学的な特徴によって診断される点が異なります。

前頭側頭型認知症の症状と早期発見のためのチェックリスト

家族に怒る高齢者

前頭側頭型認知症は、40〜64歳と比較的若い年齢での発症が多いことが知られています。アルツハイマー型認知症が70歳以上での発症が多いのに対し、前頭側頭型認知症は若年性認知症の主要原因の1つです。男女比はやや男性に多い傾向がありますが、大きな差はありません。

初期症状は多岐にわたり、個人差も大きいため、以下のチェックリストを活用して早期発見につなげましょう。

前頭側頭型認知症チェックリスト

感情や性格の変化

  • 以前は温厚だったのに、些細なことで怒りやすくなった
  • 他人への共感や思いやりが乏しくなった
  • 無関心・無気力で何事にも興味を示さなくなった

社会的ルールの無視

  • 万引きなど反社会的行動をとるようになった
  • 順番を守らない、信号を無視するなどルール違反が増えた
  • 他人の迷惑を考えず衝動的に行動する

常同行動(決まった行動の繰り返し)

  • 同じ時間に同じコースを散歩するなど、決まったパターンへの固執
  • 同じ言葉やフレーズを繰り返す
  • 特定の食べ物ばかり食べる、甘いものへの偏食

言葉の問題

  • 物の名前が出てこない、言葉が理解できない
  • 話が通じにくくなった
  • 言葉数が減った、または逆に饒舌になった

こうした症状が起こるのは、脳の前頭葉が萎縮し、自分の行動や感情をコントロールすることが困難になることが原因です。症状が複数見られる場合は、早めの受診を検討しましょう。

前頭側頭型認知症の原因

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉の神経細胞が少しずつ失われていくことで起こります。残っている神経細胞の中には、異常なたんぱく質が溜まっていることが分かっています。

脳の部位

神経細胞の中で正常な働きをしているたんぱく質が、何らかの原因で異常な形に変化し、細胞内に蓄積してしまいます。この蓄積が神経細胞を傷つけ、最終的には細胞死を引き起こすと考えられています。

残念ながら、なぜこれらの異常タンパクが蓄積するのか、根本的な原因は完全には解明されていません。現在も世界中で研究が続けられており、原因解明と治療法開発が待たれています。

前頭側頭型認知症の診断基準

前頭側頭型認知症は、症状の現れ方によって主に3つのタイプに分類されます。それぞれに診断基準があり、医師が総合的に判断して診断を行います。

行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断基準

最も多く見られるタイプで、診断には進行性の異常行動や認知機能障害があり、日常生活に支障をきたしていることが必須です。また、以下の症状のうち3つ以上が当てはまることが診断の重要なポイントになります。

  • 我慢ができなくなる(万引きや場にそぐわない行動)
  • 無関心・無気力、思いやりの欠如
  • 同じ行動の繰り返し
  • 食行動の変化
  • 計画性がなくなる

記憶力は比較的保たれているのに計画を立てる能力が低下していることや、65歳以下での発症が多いこと、画像検査で前頭葉や側頭葉の萎縮が見られることも診断基準に含まれます。

意味性認知症(SD)の診断基準

意味性認知症の診断には、物の名前が言えないことと言葉の意味が理解できないことの両方が必須条件です。例えば、富士山の写真を見せても「富士山」と分からない、信号機を見ても「信号機」という言葉が出てこないといった状態です。

ただし、言葉を繰り返すことや流暢に話すことはできるため、一見すると普通に会話ができているように見えることもあります。画像検査では、側頭葉の前の方に萎縮が見られることが特徴です。

進行性非流暢性失語(PNFA)の診断基準

言葉の問題が最も目立ち、日常生活の大きな障害となっているタイプです。文法を間違えたり、「あの、その、えーと…」と言葉が詰まって苦労しながら話したりする様子が見られます。

複雑な文章の理解は難しくなりますが、簡単な単語の意味は分かっている点が意味性認知症との違いです。画像検査では、左側の前頭葉後部に萎縮や血流低下が確認されます。

実際の診断では、医師との問診や各種検査、MRIやCTなどの画像検査を組み合わせて総合的に判断します。

前頭側頭型認知症の治療

現時点では、前頭側頭型認知症を根本的に治す治療法は確立されていません。アルツハイマー型認知症に使われる薬も、前頭側頭型認知症には十分な効果が示されておらず、行動症状を悪化させる場合もあるため原則推奨されません

ただし、興奮や攻撃性、抑うつなどの症状に対しては、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が有効であるという報告があります。

受診するタイミングと日々の対応方法

前述のチェックリストを活用し、1つでも当てはまる項目があれば早めに専門医を受診しましょう。受診先は認知症専門医、神経内科、精神科、もの忘れ外来などが適しています。

早期発見のメリットは、今後の生活設計を立てやすくなること、症状への対処法を早くから学べること、将来的に有効な治療法が開発されたときにすぐに受けられることなどがあります。

【日々の対応のポイント】

  • 恐れず、気負わず、自然な態度で関わる
  • 行動を強引に止めるのではなく、別のことに注意を向けるなど工夫する
  • 言葉だけでなく、ジェスチャーや実物を見せるなど視覚的なコミュニケーションを活用する
  • 静かで集中できる環境を作り、混乱を招かない配慮をする
  • 決まった行動パターンを生活リズムとして取り入れる
  • 表情豊かに、温かく声をかけ続ける
  • 自分からは休みにくいため、休息がとれるよう工夫する

記憶力は比較的保たれているため、なじみの関係を築くことで安定したケアが可能になります。また、デイサービスやレスパイトケア(介護者の休息支援)などの支援サービスを活用し、介護者自身のケアも大切にしましょう。

前頭側頭型認知症かな?と思ったら早めの受診を

前頭側頭型認知症は、人格変化や行動異常あるいは失語症が主な症状として現れる認知症です。怒りっぽさ、常同行動、社会的逸脱行動、不自然な会話などの症状が見られた場合は、早期の受診が重要です。

現在、確立された治療法はありませんが、症状を理解することでサポートしやすくなる可能性があります。家族の性格や行動に変化を感じたら、チェックリストを活用し、1つでも当てはまる項目があれば専門医に相談しましょう。


【参考文献】

取材・監修にご協力いただいた先生
国立長寿医療研究センター/ハイメディック名古屋トラストクリニック
伊藤健吾(いとう けんご)先生
国立長寿医療研究センター病院放射線診療部長、認知症先進医療開発センター脳機能画像診断開発部長、同センター長、治験・臨床研究推進センター長を務めた。
専門は認知症の画像診断。SPECT、PET、MRI、MEGなどを用いた脳形態および機能の総合的評価に関する研究を行う。
アルツハイマー病の早期診断に関する多施設共同研究(J-COSMIC研究、SEAD-JAPAN研究、J-ADNI研究、AMEDプレクリニカルAD研究など)に参加。画像や血液バイオマーカーを用いた早期診断法の開発、認知症領域の臨床研究の推進に取り組む。国立長寿医療研究センターにおける認知症の診断、とくに画像診断の研究開発分野において重要な役割を果たしてきた。最近は、認知症検診の立ち上げにも精力的に取り組んでいる。

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。

この記事を共有する

関連リンク